*Complex+Drive*

勝手に上から目線の、真っ黒な。

どうだったら私は退職せずに居られたのか。

結局、2月末で今の会社を退職することにした。

なかなか社長から「分かった」と言われなかったため、一応“退職願”を提出したのだが、それが受理された。

社長からは「本当に残念だ。自分も厳しく当たり過ぎた。申し訳なかった」と言われた。私は「最後までご期待に添えず、申し訳ありません」と伝えた。

本当のことだった。

私は最初から一切の期待に応えられず、一年半という短い期間で退職を決めた。

人生で最も短い在籍期間だった。

 

退職の決め手は何だったのか?

退職時に社長にももちろん説明を求められたし、面接官にも問われた。

しかし、一度でも退職を考えた方であればお分かりであろうが、理由は一つではない。

しかし正直に答えれば決め手はあった。

それは社長と外出をする予定があり、そろそろ時間というときに「用意できました」と告げたところ「なんでお前そんなに暇なの?」と返されたのだ。

こういう、不機嫌を周囲に撒き散らす社長の態度は、入社時から本当に本当に苦手だった。更に、機嫌の良いときと悪いときでまるきり対応が違うのだ。

小さい会社なので、どんな案件でも社長確認が必要で、場合によっては不機嫌な社長に質問をしなければならない。

最初はものすごく頑張った。仕事だから、仕事に必要な確認だからと、自分に言い聞かせ、勇気を振り絞って問いかけた。

しかし「そんなの俺に聞いてもしょうがないでしょ」「本当にそれが良いと思ってんの?」「何言ってるかぜんぜん分かんない」とあしらわれる日々が続いた。

「どうすれば…」食い下がると「自分で考えて」と返された。

自分で考えて考えて、行動に移すと――「なんで俺に聞かないの?」

そんなことが一年ちょっと続いての「なんでお前そんなに暇なの?」という台詞だった。

何だか唐突に

“――ああ、もう無理だな”

そう思った。

 

途中入社してきた年下のTさんの存在も大きかった。

Tさんの入社によって、社長が誰に対しても当たり散らしている訳ではないことが明らかになったのだ。

Tさんは確かに仕事ができる。見習いたいところがたくさんあって、彼女と仕事を続けていれば、吸収できることもたくさんあるだろうと思う。

彼女が入社して一年が経つが、社長が彼女に厳しく当たるところを終ぞ見ることはなかった。

つまり、私も仕事がきちんと出来ていれば、社長にそこまでツラく当たられることはなかったはずなのだ。

不機嫌な社長を前におどおどと要領の得ない質問をして、その怒りを増していたのは紛れもなく自分だったのだ。

そのことに対する認識を深くすることで、私はより社内での自分の位置を見失った。

ついには社長が誰かと話している声が聞こえてくるだけで、手が震え、動悸がした。

いつまた叱責が飛んでくるかと神経をすり減らした。

なぜなら私は社長に訊ねるべき事柄を延々と保留したまま仕事を進めており、作業中に浮かんだ質問も無かったことにして、気づかないふりをしていた。

典型的な仕事のできないダメ社員である。

ダメ社員でいることも辛かったが、質問をしてまた突き返されるかもしれないことが、怖くて怖くて仕方がなかった。

自分で「これは心療内科に行くべきではないか」と思うところまで追い詰められていた。

結局、夜はよく寝れたし、食欲もあったので、通院には至らなかったのだが。

 

どうだったら私は退職せずに居られたのか。

社長からそんな扱いを受けていたから、自分はこの会社に必要ないものだとばかり思っていた。

また、これまでの退職者の話を聞いていると、社長は“去るもの追わず”なタイプのようだったから「退職したい」と申し出て、まさか引き止めに遭うとは思ってもみなかった。

「これは相談なんだよね?」と言われたので「…いえ、実はすでに内定をいただいている企業様がおりまして」と返すと「それはずるいよ。俺はずっとこのメンバーでやっていきたいってずっと言ってたのに」と言われた。

たしかにそんなことを昨年の夏頃言われた気もしたが、一年半この会社に在籍をして、一度も自分が必要とされているなんて感じたことはなかった。

仕事を褒められたことも無ければ、感謝されたことも無かった。

最近になって昇給はされていたが、それがこれまでの仕事の結果なのかこれからの仕事に対する期待なのかもわからなかった。

これからの仕事については外回りの営業や設計方面で期待されていることは分かったけど、それは私のやりたい仕事ではなかった。

社長は「俺のコミュニケーション不足だな」と何度も口にしていて、確かにそれも退職理由の一つではあるけれども、果たして私が退職を切り出さずにいたならば、社長がそれに気づけたかは甚だ疑問ではある。

現に、とても残念なことに、私の退職が決まってから社内の雰囲気はそれなりに良くなった。

そもそも今の社内で、不機嫌を持ち込んでくるのは社長だけで、他のメンバーは明るくて前向きで人柄の良い人達ばかりなのだ。

だから社長一人が機嫌に気を遣うだけで、社の雰囲気は変わった。

では私が退職を後悔しているかと言われれば、そんなことは一切ない。

社長の無理が痛いほど伝わってくるから。きっとこれは長くは続かないだろうと思うから。

どうだったら私はこの会社に残ると選択できたのか。最近、そのことについてよく考える。

せめて給与の手取りが今の1.5倍あってくれたら。

せめて休日出勤の代休が認められていたら。

せめて残業手当がついていたら。

せめて残業という風習がなければ。

思いつくのは福利厚生についてばかりだったりする。

もし常に退職者が出ていて、人材の確保に悩んでいる経営者の人がいれば、貴方がその人に何をして欲しいかではなくて、相手がどんな働き方を望んでいるかを訊ねて欲しいと思う。

転職活動中に様々な募集案件を見てきたけれど、今は働き方改革の影響でどこもすこぶる待遇が良い。カレンダー通りの休みで残業無しという企業がほとんどになってきている。

また仕事内容によっては在宅と出社を自分で振り分けてくれて構わないと言ってくれる会社もあった。

どの会社でも人材不足がとても深刻なのだということが、私レベルの転職者でも実感できた。

現状の待遇に不満がある人、上司や同僚との関係に悩んでいる人、ぜひ気晴らしに転職活動をしてみてほしい。

転職サイトに登録して、毎日流れてくる新着を眺めてみるだけでもいい。

自分の価値を客観的に掴めるはずだから。おすすめする。

 

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