結局建築を続けるしかなくなった話。
内装設計・デザイン会社に勤めたこの一年半……痛感するのは、自分の仕事に対する不誠実さと、圧倒的なデザインに対する思い入れのなさだった。
発注をもらって、いざ実際に施工という時に、もちろん私達は立会をする。
計画段階で一度だけ現場調査をするだけなので、実測や写真判定は完璧ではない。
天井まで壁を立てようと計画したところに照明があったり、柱と柱の間隔が数センチズレていて、図面通りに行かないということがママあるからだ。
その時に現場で判断を下すために立会をする訳だが、残念ながら私は大概この判断を間違う。間違うと分かっているから、直感で出た答えとは逆の判断をしてみることもあるが、それがやはり間違っている。絶望的なセンスのなさ。
例えば、壁を立てるところに照明がぶつかってしまうとする。
その場合、壁をずらすか、照明をずらすかの判断を求められる。職人さんとしては壁の位置をずらす方が断然やりやすい。何故なら照明の場合、天井が絡むので、埋め込み照明の場合には天井の開口部を広げなければならず、かつ照明の移設跡が残るので補修や塗装など、やることが一気に増えるからだ。
ただ、壁の位置をずらす場合には、そもそも「何故この位置に壁を計画したのか」をきちんと理解していなければ安易に判断を下すことはできない。
通路幅を確保するため?
特定の家具を配置するため?
真剣に図面と向き合っていれば、判断する時間は短くて済むはずだ。
もしくは図面を見ただけで、設計の意図を汲めるセンスがあれば、判断を大きく間違うことはないはずだ。
しかし私はそのどちらも持ち合わせていなかった。
元々ないセンスを引き出すには、経験を積むしかない。
その経験値を貯めるまで、私は図面に対してもっと真剣に、脳みそを振り絞って取り組まなければならなかった。
しかしサボってしまうのである。疲れるから。
“私だったら”ここまで気にしない――という、“私基準”で仕事をしてしまう。
もちろん“お客様目線”で考えているつもりではある。
しかし社長に言わせると「ぜんぜんお客様の仕事を分かっていない」し、「同じ打ち合わせに参加しても意図の裏がぜんぜん読めていない」し、「視点がズレている」らしい。
正直、今の会社に、今の社長の下に付くまで、そんなことはまったく自覚してこなかった。
たしかにこれまで、自分が“ここまで”と譲歩できる位置までしか振れ幅を設定してこなかった。
自分が“頑張った”と思える位置は自分で決めてきた。つまり「楽」な領域を自分を中心とした円周に配置し、あらゆる方向に合わせて来たけれど、その「楽」な領域を超えてまで仕事をしようとは思わなかったし、名声を得ようとも思わずに生きてきた。そしてこれまでずっとそれで上手くやってきたつもりだった。
ある人には「ゆかちゃんのこと嫌いな人なんていないでしょ?」と言われたし、ある人には「本城さんみたいに何でもできる人って本当にいるのね!」と言われたことだってある。
それがここに来て自分が「なんにも出来なくて」「どうしようもなく頭が悪くて」「判断のひとつもまともに出来ず」「ただ言われたことを左から右に伝えるだけで」「高校生のバイトでも雇ったほうがマシ」な存在なのだと気付かされた。
毎日毎日がいたたまれなくて、だけどそれをすぐに補う方法も見つけられなくて、ない頭で考えまくって出した結論も誤りで、思い描いたデザインもまったく現場にそぐわなくて……そんな自分に疲れてここを逃げ出そうと思った転職だったから、もう建築からは離れるつもりだった。もしくは建築部材を扱う会社でも事務職を目指そうと転職活動を始めた。
しかしながら40歳を過ぎての女性の転職活動はまったく甘くない。
リクルートエージェントからもマイナビエージェントからも【大変申し訳ございませんが、現時点では求人のご紹介が難しい状況でございました】の一文が届いて以降、まったく連絡がこない。
転職サイトからの応募は軒並み書類審査で不採用。
さすがに建築部材系の事務職応募については、ほとんど面接まで進めたが基本給が16~18万と、経験に準ずる折り合いがまったく付かず、お互い「ご縁がありませんでしたね…」とお別れをする結果となった。
結局、中途半端に建築に携わってきたアラフォーには、もう建築の道しか残されていなかったのである。
今の会社には一年半という短い時間しかいなかったけれども【プロとは何か】ということを考えさせてくれる、貴重な経験をさせてもらった。
施主の希望をそのまま描き起こすだけではプロとは言えない。
その希望に対してデメリットを提示して解消したり、その希望の裏を汲み取って、施主が気づかなかった新たな提案を打ち出したり、ここだけは譲れないというプライドと熱意を持つことも必要だということを痛いほど理解した。
この会社に入らなければ、私は自分の素人さに対して深く考えることもなかっただろうし、いかに自分がこれまでなにも考えずに仕事をしてきたかを自覚することもなかっただろうと思う。
また、設計に楽な方法なんてなかったし、どんなに経験してもやってくるトラブルは千差万別だし、分からないことは訊くしかないし、初めてのことはやってみるしかないという現場のリアルを知れたことも十分自信につながった。
けっしてツラいだけの日々ではなかった。入社して良かったと思っている。
私はこれからも図面を引いて、提案書を作る。
営業の人や職人の人や材料屋さんと話を繰り返して学んでゆく。
もう私にはこの道で稼ぐほかないのだ。とことん研究して試して感じて確固たるものを自分で作り上げていくしかない。
私は腹をくくることにした。
とはいえまだ起業も諦めていないけど。占い師の道も諦めていないけど。動画を作ろうとも考えているけども。
それが私なのだから仕方ない。
手っ取り早く、建築と占いを絡めて風水でも勉強しようかしら?
三軒家万智さんもとっても詳しかったしね!必須スキルかも。
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