*Complex+Drive*

勝手に上から目線の、真っ黒な。

君は、夢を叶えたか?

今、とてもとても口説き落としている相手がいる。

前の会社で一緒に仕事をしていたD氏だ。

年齢は近いのだが、D氏は高校卒業と同時に職人の世界に入った熟練の経験者で、社内で図面を引ける私とペアでよく現場を回っていた相手だ。

現在は独立して自身の工務店を構えている。私は、私の経験値の低さとツメの甘さを十二分に理解しているD氏と、どうしてもまた一緒に仕事がしたいと思っている。なんと言ってもD氏は、ディーンフジオカ似のイケメン職人なのだ。

 

しかしながらD氏は、究極に面倒くさい相手でもある。本人にまったく自覚がないのがまた腹立たしいのだが、なんと言えば良いか、「また一緒に仕事したいです!お願いします!」と直球で申し出ても「会社の方針は決まったの?本城さんが作りたいものはどういうもの?」という返しをしてくる、一筋縄では行かない、何よりも“ハート”?を大事にする静かに熱い男なのだ。

 

たまーに会って、ファミレスでご飯を食べたりするけれど、とにかくこの人と話していてすっきりした試しがない。

基本的に話はずーっと平行線でまったく溝が埋まる気配はない。一緒に仕事を始めた頃は、そのルックスと物腰に色々期待したものだが、愛する奥さん以外に無駄に同情したりフォローしたりする相手ではないと察してからは、大概こちらもおいそれと持ち上げたりはしない。あくまでビジネスの相手として、比較的罵るようにしている。(どんなだ…)

 

それはともかく、もう半年以上も名刺をくれと言っているのに、未だにくれない。

本当にこの人うちの会社の仕事受ける気あるの?と思うが、聞けば「面白そうな社長さんだから会いたいなぁ」とかまたふわっとした物言いをしてくる。

そして

 

「本城さんは今の会社で何がしたいの?」

 

「あー…また住宅とかやりたいなーとは思いますけど」

 

「じゃあやればいいのに。人生も折り返し地点なんだから、好きなことに時間遣わないと。本城さんの夢は何?」

 

などと、またなんだか話がややこしい方向に向いてくる。

 

夢は何かと訊かれて、まっさきに思い浮かんだのは(もう、夢は叶えてるんだよなぁ…)ということだった。

 

私の夢は、大好きな人と猫を飼って暮らすことで、今現在進行形でその夢は叶っている。

この先は、夢というより願いで、猫たちをきちんと最後まで看取る、その責任を果たしたいと思っている。

 

しかし、D氏の求める夢とやらとは、何かが決定的に違うと、心の何処かでわかっている為、そのことは口に出せなかった。私にとっては何事にも変えがたい願いで、それを一番理解して欲しい人には理解されている時点で完結しているからだ。このことを他の誰にも理解される必要はなかった。

 

だから結局、その問いに答えられなかったせいで、約束を取り付けるには至っていない。本当に面倒くさい。面倒くさいんだけど、腕が良くて任せられるいい仕事相手なんだよなぁ…。

 

なので、正式に断られるまでしつこく口説いている。私の夢は叶っている。だから仕事は上手く行くはずがない。私が望むバランスだからだ。それでも生活のために働く。最低限働く。それがD氏には見え透いているのかな。本当に一筋縄では行かない相手だ。