*Complex+Drive*

勝手に上から目線の、真っ黒な。

シャイなんて何の美徳にもならない。

先週末、突然社長が「みんなでお酒でも飲みながら会議しない?」と、珍しいことを言い出した。

 

社長含め、4人しかいない小さな会社なので、誰も断る理由もなく、早めに仕事を切り上げて近くの焼肉屋に入った。

 

私を含めた3人の従業員は、社長の“会議”という単語が頭から離れず、どこかモヤモヤした気持ちのまま、恐る恐る肉を頬張っていた訳だが、当の社長は本題を避けるように、焼酎を片手に世間話に終始していた。

挙げ句「会議はまたちゃんと会社でやろうか」などと言い出し始めた。何というか、これがうちの社長の悪いクセである。悪い人ではないのだが、上にいる分には面倒くさいことこの上ないのだ。

 

昨年夏に転職して10ヶ月が経過しようとしている私だが、唯一の先輩が早々に退職してくれたおかげで、社長の次に社歴が長い身分である。設立から10年でまったく下が育っていないこの状況は、ひとえにこの社長の責任であることは明白だが、当の本人にその自覚があるかは怪しいところだ。

 

例えば、今回のディナーミーティング?だって、蓋を開けてみれば決起集会だった。経歴はバラバラだけれども、スキル的には申し分ないメンバー(と、一応私も含めて言っておく)が揃っている今、もっと顧客を増やしたいという趣旨の会議だった。

勘の良い読者の皆様ならもうお気付きであろうが、こういうことすら酒の力を借りないと言えないような“シャイ”な人物なのである。

 

マネジメントをする上で、最も重要なことはモチベーションの維持だと、私は思っている。

これは自己管理もさながら、上司の力によるところが大きい。上司の仕事というのは、部下を叱りつけることでも、仕事を取ってくることでも、上客の接待をすることでもなく、如何に部下に給料分の仕事をさせるかというところなのだが、なかなかこれを意識的に出来ている上司は少ない。

そうして、人材不足が叫ばれる今、部下に給料分の仕事を【気持ちよく】させるかが、人材をつなぎとめる重要な鍵となっている。

部下である我々にだって、個々の事情があり、今に至る背景も様々だ。そんな中で【気持ちの良い】職場を作ることは簡単なことではない。しかしながら、これこそが上司にしか出来ない仕事なのである。

 

私が最初に入社した会社の社長は、これがものすごく上手かった。今となっては日本を代表する企業グループに成長しているが、当時でも千人近い従業員を抱えるグループ会社であったにもかかわらず、新卒で入社した私とたまたま乗り合わせたエレベーターで、私に向かってこう言ったのだ。

 

「本城の仕事に対する心構え、すごく良かった。さすがあの○○が推薦してくるだけのことはある。あいつが人を認めるなんてなかなかないことなんだ。これからもよろしく頼むな」

 

社長のルックスがダンディーであったことも相当手伝って、私はその言葉にギュギュッとハートをわしづかみにされてしまった。給料も果てしなく良かったが、とにかくこの社長のために働こう、そう思わされたものである。

なぜなら社長は、社内でも気難しいことで有名な○○さんの元で、アルバイトから内定にこぎ着けたという、私が【最も誉めてほしい】ところを誉めてくれたのだから。

 

事実、人心を掌握するに一番効果的なのが“誉める”こと、それも本人が誉めてほしいところを誉めることに尽きる。

誰だって誉めて欲しい、認めて欲しいという気持ちが必ずある。なのに、それを与えることが出来ない人のなんて多いことか。変なプライドや照れがそれを邪魔している人の、なんと多いことか。

 

まさに、私の今の社長がそれで、とにかく人を誉めないうえに、イジることと誉めることを混同している有様。お礼さえまともに言われた試しがない。挙げ句、仕事時間=やる気だと思っているフシがあり、なかなかに救いようがない。働き方改革=上司の脳内改革ではなかろうか。

 

その焼肉の席で、社長は私に「本城がやってることは設計士レベル」と言われたけど、なんだかピンと来なかった。本人が精一杯誉めてることは伝わってきたが、だったらもう少し具体的に言ってほしかった。そうすれば、少なくとも、そこには自信が持てたかもしれないのに。

 

そんなわけで、せっかくの決起集会だが、我々従業員のモチベーションは特に上がることもなく、会はお開きとなった。酔っぱらいの社長にその雰囲気が伝わっていたかどうかはさだかではないが、せめて自分の機嫌で社内の空気を悪くすることだけは控えて欲しいものだ。