*Complex+Drive*

勝手に上から目線の、真っ黒な。

そこに他人が在るとき、私は傷付く。

転職することにした。

社長がいきなりキャバ嬢同伴で職場に現れ、皆騒然となる中、社長が「これ、うちのバカ娘」と隣のキャバ嬢を紹介し始め、社内に悪寒にも似た戦慄が走ったことは言うまでもない。その場にいる全員が「いやぁ、本当に見るからに馬鹿そうなバカ娘ですね」と言いたいのをぐっとこらえる中、口火を切ったのはお局軍団の「かわいい〜」というお世辞という名の悲鳴だった。これから会社の幹部として迎えるべく、取引先にその短パン・生足・グラディエーターサンダルのキャバ娘を紹介して回るんだとさ。アホらし。付き合ってられるか。と思ったのは今に始まったことではないけれど、「一緒に働きましょう!」と言ってくれた会社があったので退職することにした。

 

そんなわけで今、絶賛有給消化中である。本来であれば、退職日から逆算して最終出社日を決めるのだが、忙しい時と人が少ない日には居て欲しいと言われ、飛び飛びに休みを取って、たびたび出社をして、ダラダラと退職するような形になってしまった。

 

たまに出社してみて思うのは、外に出るとどうしても嫌な思いをするという切ない現実であった。逆に言えば、外にさえ出なければ、他者とさえ関わらなければ、自分が傷付くということはそうそう無い。一人で過ごす家という場所は、何と心地よくて、何と素晴らしいのだろう。今はネットがあるからエンタメにも事欠かないというのがまたすごくて、誰とも顔を合わせなくてもビデオを借りられるし、本だって読めるし、ゲームだって買えるのだ。こんなの引きこもらない方が損である。

 

しかしながら、その素敵な家も、素晴らしいネット環境にも金が要る。その金の為に働かなくてはならないわけだけど、労働というのは他者との関わりの最たるものであって、傷付いて、まさにその身を削って得る対価であったりする。嗚呼。そんなのおかしい。傷付きたくなくて引きこもる為に、裸同然で外に飛び出してゆかなければならないだなんて。酷い。こんな酷い矛盾ってあるか。などと曰う40歳。外に出なければ傷付かずに済むと分かっているのに、こうしてせっかくの休日もネットという海を利用して外に漕ぎ出してしまうのだから世話が無い。何故なら、他者と関わらなければ傷付くこともないけど認められることもないのだ。

 

その一縷の望みに賭けて、私は外への一歩を踏み出す。そしてまたボロボロに傷付いてこの繭のような家で猫とくるまって眠り、家を守るために戦い、外へ出る。私も他者を傷付ける。私も他者を認める。その理をどこかで引き受けているはずだから。